失敗を恐れず、目の前にある問題に挑戦する情熱が、 多くの人々の共感と協力を生んだ。

水越洋子さん
有限会社ビッグイシュー日本 共同代表・編集長
水越洋子さん
奈良県生まれ。
1975年3月、日本福祉大学女子短期大学部保育科卒業。
奈良県庁職員、保育士、地域調査計画研究所主任研究員、シチズンワークス事務局長を経て、2003年5月に有限会社ビッグイシュー日本を設立、共同代表・編集長に就任。同年9月、ホームレスの仕事をつくり、自立を応援する雑誌『ビッグイシュー日本版』を創刊。大阪で販売開始以降、販売エリアを全国に拡大している。また、ホームレスの人々の自立には、就業を含めた多面的なサポートが必要であるとの考えから、2007年9月にNPO法人ビッグイシュー基金を設立。2012年6月には、国税庁から認定NPO法人として認定されている。
ウーマン・オブ・ザ・イヤー2005(日経ウーマン主催)受賞

ビッグイシュー日本の事業内容を教えてください。

仕事を失うなどの理由でホームレスになった人たちに雑誌販売の仕事を提供し、ホームレスの人の自立を応援する事業を行っています。具体的には、350円の雑誌『ビッグイシュー日本版』10冊を無料提供、販売者となったホームレスの人は、その売上の3,500円を元手に、以後1冊170円で仕入れ、売れれば180円が販売者の利益となるしくみです。2003年9月に創刊して、昨年9月に創刊10周年を迎えました。10年間で販売者登録累計数は延べ1,493人、2013年9月現在の現役販売者数は約150人、新しい仕事を見つけ自立した卒業販売者累計数は164人になりました。また、販売者へは8億3,570万円の雑誌販売収入を提供することができました。販売者は雑誌が売れるようになると、事務所に初めて来られた時と打って変わって、笑顔が増え明るくなり、身ぎれいになっていかれます。
 正社員、アルバイト、インターン学生の他に、全国15都市で900人を越えるボランティアのみなさんに支えられているのも、ビッグイシューの特色だと思います。

有限会社ビッグイシュー日本設立のきっかけをお聞かせください。

ビッグイシュー
 日本で一番ホームレスの多い大阪の街でホームレス問題を考えようと、アメリカのホームレス団体の調査をされた方をお招きしてお話を伺ったことがきっかけです。その時、米国には星の数ほどホームレス支援団体があり、ホームレスを対象にしたシェフ養成講座や仕事をつくるためのサポート、安い住居の提供など、さまざまな支援の仕方があることを知りました。支援の仕方が多様で、気軽にホームレス支援に関わっていくことができるのは面白いと思いました。その後、偶然にある雑誌のソーシャル・アントレプレナー特集で英国のホームレスの人が雑誌を売る仕事をしているという紹介記事が目に止まり、翌月には『ビッグイシュー・スコットランド』創設者のメル・ヤング氏に会いに行きました。スコットランドのグラスゴーで見た『ビッグイシュー』を路上で販売する光景は街をすがすがしく温かくしていると感じました。帰国後、一年間の準備期間を経て仲間3人で有限会社ビッグイシュー日本を設立。ホームレスの自立支援法が成立した直後だったことも、スタートとしては良いタイミングでした。

反響はありましたか。

 取り組みに対する熱意と本気度が伝わったのか、創刊時にはテレビ・新聞・ラジオなどに取り上げてもらった影響もあり、創刊号は4万冊ほど売れました。その一方で、日本には路上販売の文化がなかったこともあり、販売場所をめぐって問題が続出しました。また、当初『ビッグイシュー日本版』は月刊で定価200円。1冊90円で仕入れ、110円を販売者の収入にしていました。しかし、1ヵ月売り続ける月末にはどうしても販売冊数が減ってきます。販売者の強い要望で、創刊2年目から月1回を月2回に増やしました。しかし、制作費がかさみ赤字続きとなり、4年目に定価を300円に値上げしました。値上げによる読者離れを心配しましたが、蓋を開けてみると読者のみなさんは好意的で、「販売者さんの取り分が増えてよかった」と言ってくださる方々が多かったんです。そのような素晴らしい読者に支えられて10周年を迎えられたと感謝しています。

その10年間でホームレスの状況に変化はありましたか。

 この10年で状況が大きく変わり、若いホームレスの人が増えています。『ビッグイシュー日本版』を創刊した2003年当時、野宿している人をカウントする厚生労働省の調査で全国に2万5,296人の路上生活者が確認されました。2013年の調査では、6,603人に減少しています。しかし、若いホームレス状態の人はインターネットカフェ、ファーストフード店などを転々とし、身なりも小綺麗です。彼らは見えないホームレス。国の調査では把握できません。今、この国にはホームレスが何人いるのか?誰にもわからないのです。
 これまでビッグイシューの販売者には50代以上の方が多く、仕事経験があり職場での人間関係にも経験がありました。ところが、若いホームレスの人たちには、家庭環境に恵まれなかった人が多く、就職した会社もブラック企業や長時間労働を強いるような零細企業が多い。正規雇用で働いた経験のある人も少なく、将来に希望が持てず心を病む人も多く、社会復帰が困難な状況に置かれています。

認定NPO法人ビッグイシュー基金も運営されていらっしゃるそうですね。

 2007年にNPO法人ビッグイシュー基金をつくりました。ビッグイシュー基金では、毎月一回、当事者の人々によるサロンの開催や、ホームレスの方々に自己肯定感を持ってもらう目的で、サッカーやダンスなどのスポーツ・文化活動を行っています。今、脱法ハウスやワーキングプアが社会問題化していますが、住宅問題は貧困問題の解決やホームレス問題につながっているため、若い人向けの住宅手当や社会住宅の必要性などについて住宅政策の提案も行っています。コンパクトでも安価で良質の賃貸住宅があれば生活は安定するので、仕事を失っても路上にすぐ出なくてすみます。私たちはホームレスの方々の目線から社会に提案しています。

今後の目標を教えてください。

 『ビッグイシュー日本版』では、楽しいだけでなく、読者が自分の問題として感じてもらえる切り口や問題を掘り下げ、解決の方法・方向性を指し示す提案型の記事づくりを心掛けています。最近ではビッグイシューオンラインを始めるなどの新しい取り組みもしています。社会的企業として成功したと言われるようになることが今後の目標です。ホームレス問題は、家族の崩壊、雇用、福祉、社会のつながりなど、複数の問題と地続きになっていますので、さまざまな団体と協働しながら、誰にでも居場所と出番のある包摂社会にしていきたいですね。

最後に同窓生に向けてメッセージをお願いします。

 日本福祉大学にはよりよい社会をつくるために貢献したいと願う人たちが全国から集まり、社会的な問題などについて先輩・後輩関係なく自由に議論し合える雰囲気がありました。個人差はあれども他人事を自分事として捉え、社会に関わって自らの力でなんとかしようと挑戦する志のようなものが大学のカラーとしてあったように思います。今でも私を含む同窓生の多くが、そのようなものを持ち続けているのではないでしょうか。特に若い世代には、取り組みたいことに果敢に挑戦してほしいですね。『ビッグイシュー日本版』では、タイムリーで元気の出る特集のほか、著名人のリレーインタビューなど、若い人たちの生き方の参考になるような記事を掲載していますので、ぜひ読んでいただきたいです。

お知らせコーナー

ビッグイシュー
有限会社ビッグイシュー日本を母体につくられたビッグイシュー基金では①ホームレスの人々への自立応援、②問題解決のネットワークづくりと政策提言、③ボランティア活動と市民参加、3本柱の応援事業を展開しています。また、出会い、つながりウォークなど、多彩な寄付メニューによる参加もできます。税制優遇があり、寄付額の約4割は納付所得税から返金されます。

ビッグイシュー
全国の書店で絶賛発売中!
『社会を変える仕事をしよう
ビッグイシュー10年続けてわかった大事なこと』
(日本実業出版社)

有限会社ビッグイシュー日本 代表
佐野 章二 著書
有限会社 ビッグイシュー日本
(2014年3月15日発行 日本福祉大学同窓会会報112号より転載)